2011年09月10日
『別れ』について。
『別れ』について。
季節は早くも九月に入り
夏色の肌を持つ人も
だいぶ少なくなりつつある今日この頃。
昨年ほどの猛暑ではない今年の夏も
少しずつ、少しずつ涼しい日が
やってくるようになりました。
さて、今日は「別れ」について・・。
このところ読み耽っている中から
テーマを揃えて「本」のご紹介です。
誰ですか、別のことを考えた人は??
笑
さてまずはこの一冊
市川拓司氏の『VOICE』。
TBS系で放送されました「いま、会いにゆきます」の
著者でもあり数々の美しい作品を執筆している中で、
この「VOICE」は、
当初、ネットにアップしていて絶賛され
書籍化された本だと聞きます。
誰でもが一度は経験するであろう青春恋愛の「姿」を
独自の美しい筆づかいで書かれたこの作品。
彼の今は亡き母も一番好きだったというこのお話は、
掛け違ってしまった柔らかなカーディガンのボタンのように
読む人をワンシーンごとの戸惑いともどかしさ
そして耐え切れない喪失感にも誘う・・、
とても淡く繊細で美しい一冊です。
もし、最後まで一気に読むことができたら
この本の良さは味わえない・・。
きっと途中で何度も読書を中断することになるでしょう。
言い換えればそれほど、
心の深い部分、
その「儚さ」が綴られております。
http://fujihige.dyndns.org/2011NEW/20110910_04a.jpg
二冊目は、『スワンソング』
大崎善生氏の作品です。
恋愛の当事者にとって或る意味
「別れ」と「喪失感」は同義語であるように
その「=」の中に封印された多彩な心の色味は
おそらくは誰にも正確には理解できない。
なのに著者の筆に掛かると強く伝わってくる共感がある・・。
自分だけではどうしようもない狂おしさを握り締めながら、
「素直に生きる」のは如何に難しいことであるのかということを
小説を通して読み取ることができる儚く哀しい一冊です。
最後にご紹介するのは、
喜多嶋隆氏の『水恋』です。
舞台はお決まりの湘南。
おそらくは「秋谷」辺り。
細い糸を手繰るように
精一杯手元まで慎重に抱き寄せた思い。
でも消えてゆく姿。
主人公はすべき事を尽くし、
その「過程」に自分の心を昇華する・・。
そんな透明感溢れる
凪の浜辺に打ち寄せる静かな波のような
読書後の心を大切にできる一冊です。
この三冊には、
激しくほとばしる熱き言葉は文中にありません。
しかし、その心の底に流れる「儚くも強い思い」が
絶えることなくあります。
いま、大きく替わってゆくこの季節。
往く夏に名残を感じつつも、
涼しく新しい季節を感じながら読むに足る本たちだと思います。